東京高等裁判所 昭和59年(ネ)2515号 判決 1988年1月26日
(ネ)第二五〇六号控訴人・(ネ)第二五一五号被控訴人(以下「一審原告」という)
白川茂登子
(ネ)第二五〇六号控訴人・(ネ)第二五一五号被控訴人(以下「一審原告」という)
白川ハル
右両名訴訟代理人弁護士
坂東司朗
坂東規子
羽成守
右両名補助参加人
国
右代表者法務大臣
林田悠紀夫
右指定代理人
村長剛二
小山希久男
関水完
(ネ)第二五〇六号被控訴人・(ネ)第二五一五号控訴人(以下「一審被告」という)
日動火災海上保険株式会社
右代表者代表取締役
佐藤義和
右訴訟代理人弁護士
上原豊
高崎尚志
君山利男
右訴訟復代理人弁護士
有吉春代
主文
一審原告らの本件控訴を棄却する。
原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。
一審原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも一審原告らの負担とする。
事実
〔申立て〕
<一審原告ら>
「原判決中一審原告ら敗訴部分を取り消す。一審被告は一審原告らに対し各金八二〇万円及びこれらに対する昭和五六年五月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。一審被告の本件控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求める。
<一審被告>
主文と同旨の判決を求める。
〔主張〕
次のとおり付加、訂正するほか、原判決摘示のとおりである。
1 原判決二枚目裏九行目の「自家用自動車保険」の前に「登録番号品川五五ら九八八八号の小型乗用車(以下「本件自動車」という。)についての」を加え、同四枚目裏一行目の「被保険自動車」を「本件自動車」と改める。
2 同五枚目表四行目の「送付し」を「送付した。島本は、本件事故に関する損害の査定担当者として、事故調査、損害額の査定、決裁、支払通知といった一連の手続を一審被告名義で行い、これらにつき一審被告を代理する権限を有していた者であり」と改め、七行目の末尾に「仮に島本が右代理権を有しなかったとしても、同人は損害調査に関連して行われる一審被告による示談代行等について一定範囲で一審被告を代理する権限を有していた者であり、かつ、一審被告は、同人に対し前記サービスセンター副主査の肩書のある名刺等の使用を許すことによって、あたかも同人が本件保険金の支払いにつき決裁権限を有するかのように表示していたのであり、一審原告らはこれによって過失なく同人が右権限を有するものと信じたのであるから、同人の前記行為については民法一〇九条、一一〇条による表見代理が成立し、右合意は有効である。」を加え、九行目及び同裏五行目の各「被保険自動車」を「本件自動車」と改め、四行目の「また、」の次に「本件自動車は事故発生当時ヒーターを入れていたものと推測されるところ、ヒーターを入れていた以上エンジンは作動していたはずであるから、」をそれぞれ加え、五行目の「排気ガス」を「排気ガスには」と、六行目の「可能性もあり」を「可能性が極めて大きく、しかも」と、九行目の「集合されたものか、」を「競合したものか」と、一〇行目から末行にかけての「同法の」を「同法七二条による」とそれぞれ改める。
3 同七枚目表六行目から七行目にかけて、九行目、一〇行目及び同裏三行目の各「被保険自動車」を「本件自動車」とそれぞれ改め、同裏八行目の「島本」の前に「一審原告主張の職にあった」を加える。
4 同八枚目表五行目の末尾に「また、五〇〇万円以上の保険金の支払いは部長の決裁によらなければならず、島本には決裁権限は無かった。のみならず、一審原告主張の封書の記載は、一審被告が島本に代理権を授与した旨を表示したものとはいえない。少なくとも、島本に保険金の支払いの決定につき一審被告を代理する権限があると信ずるについて一審原告らには過失があった。」を加え、九行目、同裏二行目及び三行目の各「被保険自動車」を「本件自動車」と改める。
〔証拠〕<省略>
理由
一請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。
二<証拠>によれば、亡辰夫は昭和五四年一一月九日横浜市緑区西八朔町八一一番地東名高速道路上り車線港北パーキングエリア(以下「本件パーキングエリア」という。)内に駐車している本件自動車内で死亡しているのが発見されたこと、行政解剖及び諸検査の結果では、遺体には鮮紅色の死斑が強度に出現しており、死後硬直が全身関節に軽度に見られ、血液は鮮紅色を呈して流動性があり、胸腹腔臓器は鮮紅色でうっ血が存し、血中の一酸化炭素の飽和度は六四パーセントであり、他に直接死因となるような顕著な病変は認められず、死因は一酸化炭素中毒、推定死亡時刻は同月七日午後七時三〇分ころと判定されたことが認められる。そして同人の死因については右に判定されたところを動かすに足りる証拠はない。
三一審原告茂登子、同ハルがそれぞれ亡辰夫の妻、母としてその相続人であることは、当事者間に争いがない。
四一審原告らは、第一次的に、本件自動車保険金の支払いにつき一審原告らと一審被告との間で各一審原告に対し九五〇万円を支払う旨の合意が成立したと主張するので、まずこの点について検討を加える。
一審原告らが一審被告に対し昭和五五年三月本件自動車保険について保険金の請求をしたことは当事者間に争いがない。<証拠>によれば、一審被告の目黒自動車保険損害調査サービスセンターの副主査であった島本は、本件事故について調査した結果、保険事故に該当すると判断し、右請求に対し同年七月七日一審原告茂登子に宛てて本件自動車保険金の支払いをすることに決まったが自損事故条項と搭乗者傷害条項のそれぞれについて保険金請求書が必要なので保険金請求書をもう一通送付してほしい旨の手紙を送ったことが認められる。
しかしながら、一般に保険金の請求権は保険契約の締結と保険事故の発生とによって生ずるものであり、保険金受取人の保険金請求は、保険金請求権の発生を前提とした支払いの催告であって、保険金請求権の発生を目的とする申込ではなく、その後の事故調査等の結果に基づいて保険者がする保険金支払いに関する意思の表明は、右請求権が発生したことを確認する観念の通知として保険金支払手続の一環をなすにすぎず、それ自体が保険金請求権を発生せしめる効果をもつ意思表示であるとは解し難い。そして島本による前記手紙の送付が、一般の場合と異なり右のような効果を生ずる意思表示たる性質を有するものであったことを窺わせるに足りる証拠はないから、右手紙の送付によって保険金支払いの合意が成立したことを根拠とする一審原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく失当である。
五次に、一審原告らは、本件事故は亡辰夫が本件パーキングエリア内で仮眠中に本件自動車及び他車の排気ガスのために一酸化炭素中毒死したものであると主張するので、これについて検討する。
1 亡辰夫の遺体の発見の具体的状況については、<証拠>を総合すると次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
① 亡辰夫の遺体が発見された場所は、本件パーキングエリア内北側駐車場の東から四番目の駐車区画(原判決添付図面(一)の「発見された場所」と記載された位置。以下「本件駐車位置」という。)に駐車中の本件自動車の運転席である。
② 本件パーキングエリアは、一〇〇台以上の自動車の駐車が可能なスペースを有し、中央に売店、公衆便所がある。北側駐車場はパーキングエリアのある台地の北端に当たり、その北側は下り斜面となっており、斜面との境界に沿って大人の背丈以上ある樹木がほぼ一列に植えられていた。
③ 亡辰夫の遺体は、昭和五四年一一月九日午後四時三〇分ころ観光バスの乗客と思われる者によって前記発見場所で発見され、同人から連絡を受けた前記売店の従業員の飯塚好四郎が現場へ赴いて確認したうえ神奈川県警交通機動隊に通報した。その際の現場の状況は次のとおりであった。
(イ) 本件自動車は前部を北に向けて本件駐車位置に駐車されており、運転席の窓だけが二、三センチメートル開き、運転席のドアは施錠されていなかった。
(ロ) 本件自動車のサイドブレーキは引いてあり、エンジンキーは差し込んであったがエンジンは停止していた。
(ハ) 運転席のリクライニングシートは一杯に倒してあり、そこに遺体は仰向けに両手足を伸ばした格好で横たわっており、着衣に乱れはなく、外傷も見当たらず、仮眠しているような自然な状態であった。
④ その後、警察の捜査によって、車内から同月七日午後六時五〇分ころ東名高速道路横浜インターチェンジを通過した旨の記載のある通行券が発見され(同インターチェンジから本件パーキングエリアまでは通常の走行で約六分を要する。)、ガソリンの残量のあることが確認されたが、自殺、他殺に結び付くような証拠や本件自動車の欠陥等直接一酸化炭素中毒の原因を窺わせるような事実は発見されず(本訴においても同種の証拠はない。)、昭和五五年六月ころ継続捜査となって捜査は一応終了した。
⑤ 亡辰夫の遺体を解剖した神奈川県監察医伊藤順通は、前述したような遺体の状況から死後二日程度経過しているものと判断し、前記通行券に記載された通過時刻をも考慮して、推定死亡時刻を昭和五四年一一月七日午後七時三〇分ころとした。
⑥ 本件パーキングエリアでは、暖冷房のためにエンジンをかけたままで駐停車している車がかなり多い。横浜地方気象台の発表によると、右一一月七日の午後六時に気温16.1度(以下、温度はいずれも摂氏)、風速毎秒1.3メートル、午後九時に気温14.8度、風速毎秒1.1メートルであった。
⑦ 本件パーキングエリアの北側駐車場は、原判決別紙図面(一)記載のとおり北側境界に対して斜めに駐車区画が設けられており、これに従って九台が平行して駐車できる。本件駐車位置の区画は原判決別紙図面(二)のA、B、C、D、Aの各点を直線で順次結んだ部分であり、同駐車場は小型車専用であるが、長さ七メートル位の車両であれば本件駐車位置と東側の浄化槽との間に本件自動車に対して垂直に駐車することも可能である。
⑧ 少なくとも静岡、愛知、岐阜、滋賀、京都の各府県において、高速道路のパーキングエリアの駐車場における自動車の排気ガス中の一酸化炭素による中毒死の事例は存しない。
2 右に認定したような状況を前提として、亡辰夫が本件駐車位置において本件自動車及び他車の排気ガス中の一酸化炭素のために中毒死する可能性があるかどうかを考えると、<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。
① 一般に、一酸化炭素中毒を起こす因子は、生体の運動による呼吸の亢進を考慮外に置いた場合、一酸化炭素の濃度と吸入時間の長さとであり、PPMを単位とする前者の数値と時間を単位とする後者の数値との積が一五〇〇以上に達すると血液中の一酸化炭素ヘモグロビンが六〇パーセント前後に達し死亡の危険が生ずる(四〇パーセント程度で死亡する場合もある)が、死亡に至るには一五〇〇PPM位の濃度が必要で、それより低い濃度では長時間吸入しても死亡には至りにくいとされる。
② 自動車の排気ガス中の一酸化炭素の許容濃度は四万五〇〇〇PPMであるが、実際に運行されている自動車の排気ガス中の一酸化炭素の濃度はこれよりかなり低く、通常は五〇〇〇PPM程度、整備状態の比較的不良な車でも一万PPM程度である。また、戸外では一酸化炭素は空気よりやや軽いため拡散し易く、その濃度は、原則として排気口からの距離の三乗に逆比例して低下すると考えられる。
③ 停車したままエンジンをかけてヒーターを入れている場合、二四ないし四八時間位でバッテリーが上がりエンジンは停止するので、前記一一月七日の気温から考えて、亡辰夫が仮眠中に中毒死したとすれば、当初はエンジンをかけヒーターを入れていた可能性が高い。
④ 江守一郎が、昭和六二年二月七日、風速毎秒0.2メートル、気温一五度の条件下の戸外で、甲自動車の排気ガス中の一酸化炭素の濃度を一〇万PPMとし、その排気管の後方四〇センチメートルの位置にこれに運転席の側面が正対するように駐車した乙自動車(乗用車)の運転席の窓を五センチメートル開き、ベンチレーターファンを作動させて実験したところでは、右運転席における一酸化炭素濃度(三〇分後)はベンチレーターファンを強にした場合で一〇PPM、弱にした場合で一PPM以下であり、また、運転席ドアの外側上部で右二つの場合につきそれぞれ二〇PPM、三〇PPM、右ドアの外側中部(窓ガラスの直下)でそれぞれ一五〇〇PPM、一〇〇PPM、右ドアの下部でそれぞれ一五〇〇PPM、七〇〇〇PPMであった。右実験結果から考察すると、本件自動車の運転席に最も濃度の高い一酸化炭素が流入するのは右実験のような位置関係で運転席が他車の排気ガスにさらされる場合であるとみられるが、その場合の一酸化炭素の濃度は風向き、風速等の外的条件に左右される可能性が大きく、ある程度以上の濃度のガスが継続的に運転席に流入する可能性自体かなり疑わしいから、仮に時間に比例して一酸化炭素が運転席に流入し、そこに滞留するとしても、その量は微々たるものと思われる。また、右実験におけるような位置関係以外に本件自動車の周囲に他の自動車が駐車していて排気ガスを放出していたとしても、右にみたような拡散の状況からすれば、右ガスが運転席の一酸化炭素の濃度に与える影響は微弱であると考えられる。もっとも、次に述べる津田征郎の実験結果からすると、周辺の両側に大型車両が駐停車しているような場合にはガスの拡散がかなり妨げられ、その結果一酸化炭素濃度がそうでない場合の数倍に達することがあることが認められるが、前記のような本件駐車位置の状況からして両側に大型車両が駐停車する状況は起こりにくく、ことに平行して駐停車することはまずありえないこと、前記実験で放出された約一〇万PPMという一酸化炭素濃度が異例に高いものであることに加えて、前記のように車内と車外とでは一酸化炭素の濃度にかなりの差が生ずることをも併せ考えると、前記実験結果に右のような拡散に対する障害の問題をも考慮に入れて検討しても、車内の一酸化炭素濃度が死亡の危険を招く程度にまで高まることは想定し難い。
⑤ 津田征郎は、昭和六〇年一一月八日、気温二〇度、風速毎秒約一メートルの本件パーキングエリアで(ただし、本件駐車位置には工事中で立ち入れないため、より中央寄りの別の場所において)、(イ)実験車の前方と左右を同一方向に向けて駐車させた七台の自動車で囲み、実験車の運転席の窓を三センチメートル開け、ベンチレーターはリサイクルにし、二九分間一斉に各車のエンジンを作動させ、(ロ)一台(アイドリング時の排気中の一酸化炭素濃度三〇〇〇PPMのハイエース)を排気管が実験車の運転席の側面に正対するような位置に駐車させ、他の六台を前同様実験車と同一方向に向けて駐車させ、実験車のベンチレーターを外気導入にし、運転席の窓を前記のままとして五五分、その後右窓を密閉して一五分測定を行ったところ、(イ)では、実験車内の一酸化炭素濃度は最高五六PPM、ほぼ四〇ないし五五PPMとなり、車内に置いたラットは生存していてその血中一酸化炭素濃度の平均は5.8パーセントであり、(ロ)では、実験車内の一酸化炭素濃度は最高八三PPM、ほぼ一九ないし八二PPMとなり、濃度の変化は周辺に出入する車両の大小に影響されるところが大で、両側に大型車両が駐車すると濃度が高まることが認められ、車内のラットは生存しており、その血中一酸化炭素濃度の平均は8.4パーセントであった。右ラットについての実験結果は、人間の場合であればその約六倍の時間排気ガスにさらされたのに匹敵する。右(ロ)の実験に用いられたハイエースは排気ガスの濃度の低いものであるが、この点を考慮に入れても、右実験結果からは運転席の一酸化炭素濃度が死亡の危険を招く程度になることは考えにくい。
以上認定したところによれば、本件駐車位置で運転席にいた亡辰夫が周囲に駐車した他の自動車や自車の排気ガスを吸入したとしても、これによって同人が一酸化炭素中毒にかかり死亡する可能性はほとんど考えられないといわなければならない。
3 ところで、<証拠>によれば、塚越昇はトヨタ自動車販売株式会社東京排気ガス測定室(縦約一六メートル、横約一二メートル、天井高2.5メートル)で実験車(乗用車)の運転席側にこれと平行してトラック(ガソリン車)を置き、両車のエンジンをかけ、実験車のベンチレーターを外気導入に、温度レバーを二三度に、吹出しレバーを頭寒足熱にセットし、運転席の窓を約一センチメートル開けて運転席の一酸化炭素濃度を測定したが、両車とも通常のアイドリングを行った場合の測定値は一五〇PPM、トラックのアクセルペダルをあおった場合の測定値は四八〇PPM、トラックのチョークを引いて吸入ガスを濃くし、スロットルを引いて回転を一〇〇〇rpmにした場合の測定値は一七〇〇PPM、室温を二〇度に上げた場合の測定値は一九八〇PPM、いったん測定室のシャッターを開け外気を入れたのち、改めて排気扇を作動させて(毎分二六〇〇リットル)エンジンをかけた場合の測定値は二二〇PPM、トラックの四気筒エンジンの一本のプラグを外した場合の測定値は二八五PPM、更にチョークを引き、スロットルを引いた場合の測定値は一二〇〇PPM、エンジンを一〇〇〇rpmに戻し、排気扇を毎分七二〇〇リットルにした場合の測定値は九〇〇PPMないし一五〇〇PPM、更に測定室内のファンでトラックの前方から送風し、室内循環を図った場合の測定値は八七〇PPM、右ファンの向きを変え、後方から風が送られるようにした場合の測定値は一九二〇PPMであり、実験終了後測定室のシャッターを開き大気に開放すると、瞬時に七五〇PPMから三九〇PPMに下がったことが認められる。
右測定値の一部は、ある程度の時間継続すれば一酸化炭素中毒死を招く可能性のあるものであるが、右実験は、室内で、しかも一部は換気の全く行われない状態で、他の部分は、戸外の状態に匹敵するような十分な換気の行われない状態(当審証人津田征郎の証言参照)の下で行われたものであること、測定室のシャッターを開放した時に一酸化炭素濃度が急速に低下していることからみて、本件駐車位置における一酸化炭素濃度の程度を認定する根拠とすることは困難である。
そのほか、一審原告らの前記主張事実を認めるに足りる証拠はない。
以上によれば、前記のように亡辰夫を乗せた本件自動車が本件駐車位置に駐車されたのちにおける右自動車又は他車からの排気ガスの排出と同人の死亡との間には相当因果関係は存在しないというほかない。同人が一酸化炭素中毒により死亡したものであることは前記のとおりであり、同人の死亡が自殺によるものでないことは遺体発見時の状況から明らかであり、また、他殺と認めるに足りる事跡はなく、死亡原因はついに明らかにすることはできないが、だからといって、このことだけから前示認定の結果をさしおいて、消去法により前記相当因果関係があるものとすることはできない。したがって、亡辰夫の死亡は、本件自動車の運行に起因する事故によるもの又は同人が運行中の交通乗用具に搭乗しているときの事故によるものと断定することはできないから、その余の点について判断するまでもなく、一審原告らの本訴請求は理由がない。
六よって、一審原告らの本件控訴を棄却し、一審被告の控訴に基づいて原判決中一審原告らの請求の一部を認容した部分を取り消して右認容にかかる一審原告らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官丹野達 裁判官加茂紀久男 裁判官河合治夫)
別紙<省略>